その理由 第2話

「貴様が侵入者か……」

ケイはその少年を睨んだ。

「もし、そうだと言ったら?」

少年は笑みを浮かべて言った。

2人の間に風が吹きぬけていった。

「……斬る!」

ケイは不意に剣を振り、少年に斬りかかった。

すると、少年は浮かび上がるかのように跳んだ。

「……チッ!」

ケイは舌打ちをして、空中を浮んでいる少年を見上げた。

「そうか、君はその程度か……」

少年はケイを見て、不気味な笑みを浮かべる。


突如、空気の流れが変わり周りの木々がざわめき始めた。

その空気はケイと少年を回り込むように渦巻いている。

「…………飛べ! ファイヤーボール!」

女子の声がした途端、少年の背後の茂みから、拳くらいの火の玉が2、3個飛んできた。

その火の玉は少年に真っ直ぐ向かっていく。

「何……!?」

少年は、振り返って右腕で、火の玉を受け止めた。

「……ケイ! 今がチャンスだよ!」

茂みから、出てきたのは「ユキ」だった。

ユキはケイのパーティの一人であり、小等部のときからパーティを組んでいる。いわば幼馴染みである。

「ユキ! サンキュー」

ケイは背中を向けている少年に向かって跳びながら剣を振った。

「甘いね」

しかし、少年はケイに気付き、体をひねって回し蹴りを放った。

「ぐぁ……!」

ケイは左脇腹を蹴られ地面に落下した。

「ケイ、大丈夫?」

ユキは走って気絶しているケイの元へ向かって行こうとした。

「待て!!」

少年が突然叫んだ、その声に動揺したのかユキはそのまま立ち止まってしまった。

「どうやら君たちは、僕を本気にさせたようだ」

そして、少年は胸ポケットから、なにやら怪しい時計を取り出した。さらに、その時計をケイの方向へ向けた。

「あれは……マジックアイテム!」

ユキはケイの急いで元へ向かい、ケイの体をゆっくりと起こした。

マジックアイテムとは、使用者の魔力が少なく、高レベルの魔術を使えない時に補うための道具であり、それを持ち、詠唱をするだけでその魔術を使えるようになる。

さらに魔術の詠唱とは、決められた文章を読むことであり、この世界ではその文章を詠唱するだけで魔術が使える。なお、使用者の魔力が高ければ、多少、詠唱文を省略してもその魔術が使えるのである。

「僕はねぇ、ここの生徒だったんだ」

少年が黙々と語り始めた。

「けどねぇ、僕はねぇ、大きな罪を犯したんだ」

その少年は一呼吸置いた。

「人を消したんだ。この時計で……因みにねぇ、この時計は、対象物の時間を自由に変えられるんだ」

ユキはハッとした顔をした。

「そう、その人の時間を急加速させれば――けどねぇ、その後すぐに、ここの校長に見つかったねぇ、罰を受けたんだ。僕の学籍の取り消しと魔力の剥奪。おかげで小等部でさえ、詠唱略でも使える魔術も全文詠唱しなければいけないんだ。魔術の天才といわれた僕には大きな打撃だったよ……それでねぇ、ここにねぇ復讐をしに来たんだ」

少年はその時計に魔力を溜め始めた。

「ケイ! 起きてよ」

ユキはケイを揺さ振るが目を覚ます気配が無い。

「まずは君たちから――」

時計から、魔力の込められた光が発射された。

「聖なる光よ、我を守れ! バリア……お願い間に合って」

ユキの願いも空しく、魔術が発動する前にその光がユキとケイに命中した。


「きゃぁ……!」

ユキはその衝撃でバランスを崩し、少しずつ意識が遠のいていく。

「あっ、ごめんねぇ、間違えて君たちの時間を少しだけ逆転させちゃった…………まぁ、せいぜい苦しみなよ」

少年はニヤッとわざとらしい笑いを浮かべた。

ユキはその台詞を聞いた途端、意識が完全に消え地面に落ちた。ユキの目には涙が浮んでいた。